海外進出には統合知が必然 パート1
はじめに
2020年、コロナ禍が進行し、ショックが徐々に和らいでいく中で、世界は混雑した公共交通機関の代替手段として電動キックボード、電動時電車など新たなモビリティのブームを迎えました。特に欧米では、電動キックボードが流行し、日常の移動手段として広く利用されるようになりました。2021年には、世界中でMaaS(Mobility as a Service)のブームがピークに達しました。
その時、あるグローバルMaaS企業は海外で大成功を収め、ホームグランドでトップの座(売上基準)を獲得しました。しかし、他の国々では競争が激化し、成長が鈍化する中で、新たな成長エンジンとしてさらなる海外進出を決定しました。その中でも、まだMaaSが普及していない日本市場に注目し、他国での成功ノウハウを展開するために進出を決めました。
しかし、海外進出にはノウハウがあるものの、新しい企業をゼロから立ち上げるのと同じように、多岐にわたる分野での知見を持つ人材が必要でした。そこで、弊社のメンバーが選ばれました。具体的には、まず、言語の壁があり、本社とのコミュニケーションは日本語ではできないため、バイリンガルが必須でした。それに加え、業務コンサルティングではなく、戦略コンサルティングの経験が重要でした。なぜなら、業務コンサルティングは特定の分野に特化した専門家であるのに対し、戦略コンサルティングは幅広い知識を持つジェネラリストであり、未知の分野でも能力を発揮できるからです。最後に、戦略から実行まで一貫して行える能力が求められました。計画を立てるだけでは実際には何も起こらないため、営業からアプリ開発まで実行できる能力が必要でした。
海外進出市場調査
MaaSにはさまざまな移動手段が存在しますが、本社では、強みとがあり、ノウハウが豊富な電動キックボードから展開することに決めました。最初、プロジェクトに着手したとき、日本では電動キックボードをあまり見かけないことが気になり、まずその理由から調べてみました。そこで海外と異なる点を2つ見つけました。
1. 規制の違い
海外では規制がなく、自由に利用できますが、日本では規制が厳しいことがわかりました。特にお客様は電動キックボード用の駐車場にしか降りることができません。海外では「見つけて捨てる」モデルで、お客様がどこでもキックボードを降りることができますが、日本の場合、電動キックボード用の駐車場を利用しなければなりません。ただし、公共の駐車場が少なく、私有地の駐車場にしか降りることができません。当時、十分な駐車場が用意できていなかったため、目的地と駐車場が離れていることが多く、事前に駐車場の有無を確認する必要があります。また、混雑する時間帯には駐車できないこともあり、モビリティの利便性が損なわれる状況です。 もちろん、駐車場を急激に増やすことは難しく、獲得と維持には膨大な費用がかかりますので、計画的に進める必要があります。
2. 認識の違い
日本では電動キックボードに対する認識があまり良くなく、危険だと考えられているため、普及が進んでいません。多くの人々が電動キックボードを危険な乗り物と見なしており、交通事故や歩行者との衝突のリスクが高いと感じています。このため、利用者が少なく、普及が進まない状況です。 また、日本の都市部では歩道や道路が狭く、電動キックボードの利用が難しい環境にあります。これにより、利用者が安全に走行できるインフラの整備が求められています。さらに、交通ルールやマナーに対する意識の向上も必要です。これらの課題を解決することで、電動キックボードの普及が進む可能性がありました。
他社事例調査
上記のように、2つのハードルが存在するため、他社がどのように対処しているかをリサーチしました。
Luup社:規制観点からのアプローチ
国内ではLuupという会社が2020年からサービスを提供しており、日本国内で最も早い段階からサービスを開始しました。そのため、最初は規制の面からアプローチしました。規制の緩和を目指して働きかける一方で、駐車場の確保にも力を入れました。
まず、規制緩和面では、より大きな声を上げるため、また業界内のルールを作るために、モビリティ協会を設立し、活動を強化しました。その一方で、駐車場は電動キックボード用ではなく、自転車用として確保し、規制が緩和されることでこれを電動キックボード用に転換する計画を立てました。
Bird社: 認識が良いエリアからの展開 – 米軍基地を中心に
Bird社は、立川を拠点にサービスを展開しました。一見すると意外に思えるかもしれませんが、そこには明確な理由があります。Bird社は、電動キックボードに対する認識が良いエリア、特に米軍基地を中心にサービスを提供しています。これらのエリアでは、利用者が電動キックボードを安全かつ便利な移動手段として受け入れており、普及が進んでいます。
さらに、Bird社は利用者の安全を確保するために、定期的なメンテナンスと点検を行い、事故防止に努めています。また、利用者に対して安全な運転方法や規則を周知するためのキャンペーンも実施しています。これにより、電動キックボードの利用がより一層普及し、都市部での移動手段としての地位を確立しています。
Mobby社:企業との提携により規制と認識同時に解決
当時、福岡を拠点にサービスを展開していたMobby社は、企業や商業施設と提携し、プライベート空間での電動キックボードの利用を促進していました。企業敷地内や商業施設内での利用を推進することで、規制の影響を受けにくい環境を提供し、利用者が安心して電動キックボードを利用できるようにしました。さらに、Mobby社は利用者の安全を確保するために、定期的なメンテナンスと点検を行い、事故防止に努めました。また、利用者に対して安全な運転方法や規則を周知するためのキャンペーンも実施しました。これにより、電動キックボードの利用がより一層普及し、都市部での移動手段としての地位を確立しました。
ターゲット層と市場規模調査に基づいたアクションプラン
認知度が低いため、若年層が主要なターゲットではないかという仮説を立てて調査を行いました。海外の事例や本社のデータを分析した結果、やはり20代から30代のお客様が最も多いことが判明しました。
市場規模と潜在的な利益については、正確な数値は非公開とさせていただきますが、2つの方法で概算を行いました。1つは電動自転車市場を比較し、成長可能性を評価するトップダウン分析アプローチです。もう1つは本社のデータを基に前提を重ねて推測したボトムアップ分析アプローチです。
これらの分析を基に収益シミュレーションを作成し、以下の要素を決定しました:
- キックボードの台数
- 展開すべき地域
- 必要な駐車場数
- 駐車場ごとの駐車可能台数
- 必要な倉庫のサイズと場所
- 必要な従業員数
これにより、効率的かつ効果的な市場展開が可能となります。
出口プラン
普段はここまでしませんが、弊社はさらに出口プランまで考えました。ここでは詳細に関しては公開できませんが、その理由と重要性についてお伝えします。まず、出口プランを考える理由は、現在の資金でどれだけ持ちこたえられるかを把握し、最もコストパフォーマンスの良い方法を見つけるためです。普段はこのようなプランを立てない理由としては、「資金繰りの重要性を認識していない」か「成功を前提としているため失敗を想定していない」からです。
しかし、出口プランを用意しないと、撤退時にさらなる費用がかかる可能性があります。例えば、資金が尽きる直前まで待つと、従業員への給与が支払えなくなったり、請求書の支払いが滞り、訴訟リスクが発生する可能性があります。協力会社や従業員に迷惑をかけないようにするためにも、出口プランは重要です。