概要
多くの企業が「イノベーション」と叫んでいますが、実際にイノベーションを実現している企業や製品、サービスはごくわずかです。この連載では、その原因を探り、今後どのようにすれば真のイノベーションを達成できるのかを解説します。また、事例を通じて、具体的なアプローチや戦略についても考察していきます。イノベーションの本質を理解し、実践するためのヒントを提供します。連載の順番は、以下となります。
- そもそもイノベーションとは?
- イノベーションサイクル・アプローチ
- 結論と注意点
1. そもそもイノベーションとは?
最も重要な問題:そもそも定義や方針がない
そもそもイノベーションが何か、定義や方針がないことが多いです。イノベーションは広く誤解されている用語です。すべてのビジネスリーダーがその重要性を認めていますが、正確な意味については意見が一致しません。Googleで「イノベーション」を検索すると、数百万件の結果が表示され、そのどれもが曖昧です。
ただし、定義がないと様々な混乱を招いてしまいます。それぞれが全く異なる解釈をしてしまうため、同床異夢の状態になることが多いです。前職で「イノベーション」チームに属したことがあります。その時、イノベーションは「格好いい」から、役員の間にイノベーションチームを自分のものにするためにケンカが起こりました。ただ、実際に業務を行う私としては、上司に「この会社でいうイノベーションとは何ですか?」と尋ねました。しかし、返ってきた答えは「こんなものもイノベーションと考えられるし、こんなものも言える」という曖昧な例ばかりでした。要は「知らない」ということですね。そこで、約20名の役員にも聞いてみましたが、誰一人として定義や方針を示すことはできませんでした。
社内で答えが見つからないと思い、外部に目を向けることにしました。まず、会社が提供する外部研修に参加しましたが、期待外れでした。研修のタイトルは「イノベーティブな思考」でしたが、数十年前のSony社のWalkmanの話を2〜3時間聞かされるだけで、他の例はありませんでした。結局、明確な定義もありませんでした。私のイノベーションの定義を求める旅はそれ以降も続きました。そして、やっと納得できる定義に辿り着きました。それを解説する前に、まず辞書的な定義と、いわゆる「イノベーティブ」と呼ばれる企業の定義を調べてみましょう。
辞書的な定義
イノベーションとは、新しいものを創造すること、または既存のものに新しい方法やアイデアを導入することを指します。例えば、新しい製品の開発や、既存の製品やサービスの大幅な改善などが含まれます。
他社の定義
Googleの定義: Googleは、イノベーションを「the action or process of innovating」と定義しています。和訳すると「イノベーションの行動またはプロセス」ですが、あまり洞察を提供していませんが、重要なアイデアに触れています。イノベーションは結果だけでなく、プロセスでもあります。
弊社の定義
まず、良い定義や方針の条件についてお話しします。1. 定義は、想像しやすくなければなりません。指示や方針を発信する際に、皆さんが全く異なることを考えてしまうと、認識の齟齬が発生し、「議論が永遠に続く」ことになります。これでは仕事が進みません。したがって、ある程度の解説の余地を残しつつも、柔軟性を持ちながら、皆が想像しやすい定義でなければ有効ではありません。2. アクションに繋がる必要があります。皆さんが同じことを想像し、認識が一致しても、結局アクションや行動に繋がらなければ何も起こりません。ですから、この点も重要と言えるでしょう。
お待たせしました。説明が長くなりましたが、弊社では「ある課題を解決することで人の生活パターンが変化すること」と定義しています。例を挙げましょう。まず、先ほど話したSony社のWalkmanについて説明します。Walkmanはイノベーションと言われますが、「なぜ」でしょうか?すぐに明確に答えられる人は少ないでしょう。しかし、弊社の定義では「人の生活パターン」が変わったからです。以前は歩きながら音楽を聴くことは不可能でしたが、Walkmanの登場により、歩きながら外でも音楽を聴くことができるようになりました。「歩きながら音楽を聴けない」から「聴けるようになった」ことで、生活のパターンが変わったのです。
他の例を見てみましょう。1900年代に馬から車への移行はなかなか進みませんでしたが、1回のガソリン充填で近所の公園にピクニックに行けるようになったことで、移行が始まったと言えます。ここでも、週末の過ごし方のパターンが変わったと言えるでしょう。近年のイノベーションとしては、AppleのM1が挙げられます。以前はバッテリーが長持ちせず、ノートパソコンで1日充電なしで仕事をすることはできませんでした。また、高性能な処理が必要な仕事はノートパソコンでは不可能でしたが、M1の登場により、充電なしで仕事ができるようになり、「充電器」を持ち歩く必要がなくなりました。さらに、動画編集などの仕事も外でできるようになりました。この定義に基づけば、冷蔵庫やエアコンなど様々なものの解説がうまくできるでしょう。
既存の「イノベーション」については解説できるようになりましたが、今後の「イノベーション」はどうなるのでしょうか。ここで注目すべき点は「何ができるようになったか」です。逆に考えると、お客様は今、何かを不便に感じている、または何かの理由で今それができていない、つまり「課題」があるということです。だからこそ、弊社の定義には「課題を解決することで」が含まれています。次回、より詳しく説明しますが、イノベーションは想像することから始まります。「こんなことができるようになったら生活がこんな風に変わりますね」と想像し、その次に「どんな課題があって今、それができていないのか」を考えることでアクションに繋がります。
イノベーションといえば、よく言われるのがSpace X社の例です。「火星に住みたい」という「人類の生活パターン」をひっくり返すようなことを考えて事業を進めていますね。その時の課題は3つあります。「ロケットの打ち上げ費用が高い」「火星まで行くのに時間がかかる」「火星で生活するためにはある程度大きな荷物を運ぶ必要があるが、今はそれができない」という点です。これを実際にSpace Xの今までの動きを見ると、3つの課題に対してどのような取り組みをしているかが見えますし、今後どうなるかも大体想像ができます。
我々の生活により近いことを考えると、不便に感じること全てがイノベーションのアイデアになります。例えば、旅行の軸で考えて見ると、「ニューヨーク」まで6時間で行けるようになったら、週末の過ごし方が変わるでしょう。また、旅行の観点から見ると、両替をしないまま「円」を海外でそのまま使えるようになると、それもイノベーションになり得るでしょう。より簡単なことでは、旅行で余った小銭が両替できないのはもったいないと感じることもイノベーションに繋がると思います。 それでは、次回は実際に業務に適用できるイノベーションサイクルについて解説しようと思います。
ピンバック: イノベーションサイクル・アプローチ – Singularity Partners
ピンバック: イノベーション注意点 – Singularity Partners
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