過去の冬の時代との共通点と相違点
概要
前回の記事では、過去のAIブームとその後の「冬の時代」について解説しました。今回は、過去と現在を比較し、今後の展望や企業・個人が取るべき行動について考察します。
- AIバブル論の始まり
- 過去のAI冬の時代
- 過去の冬の時代との共通点と相違点
- では、何をすべきか
3. 過去の冬の時代との共通点と相違点
単なる比較にとどまらず、現在のAIブームが個人や企業にどのような影響を与えるかを分析します。「コンサルティング流」分析の基本として、技術が成功するためには「インパクト」と「フィジビリティ」の2つの要素を満たす必要があります。
まず、「インパクト」とは、その技術が収益を生むかどうかです。どんなサービスや製品でも、利益がなければ企業はビジネスを続けることができません。赤字が続くビジネスの存続は困難です。
次に、「フィジビリティ」とは、その技術が実現可能かどうかです。すべてのサービスや製品は、何らかのニーズに応えるために提供されます。例えば、車はA地点からB地点まで移動したいというニーズに応えるために存在します。(もちろん、ニーズ以外にも「ウォンツ」という概念がありますが、今回はニーズドリブン市場に焦点を当てます。)
これら2つの視点から、現在のAIブームを分析してみましょう。
フィジビリティ:ニーズを満たせるのか
ホワイトカラーの仕事におけるフィジビリティ
AI技術が実際にどのようなニーズを満たすのかを分析するためには、まずそのニーズを明確に定義する必要があります。AIはどのようなニーズを満たすために開発されたのでしょうか?現在、AI市場はまだ完全に成熟していないため、ニーズを明確にすることは難しいかもしれません。しかし、多くの記事や専門家のコメントを見ると、「20XX年にはOOOの仕事がなくなる」といった予測が多く見られます。つまり、人間の仕事を代替することがAIの主要なニーズと言えるでしょう。
ただし、このニーズは非常に広範であるため、より具体的に分解して分析する必要があります。例えば、生成AIが最近話題となっており、ホワイトカラーの仕事を代替する可能性が指摘されています。ここでは、デスクワークを例にとって考えてみましょう。上司からマーケットリサーチを指示された場合の流れを想定してみます。
- 人に指示する
- 指示を理解する
- 実行する方法を考える
- 情報を収集する
- 情報をまとめる
- 内容を報告する
これをテクノロジーの言語に変換すると、以下のようになります。
ブルーカラーの仕事におけるフィジビリティ
では、ブルーカラーの仕事についてはどうでしょうか。ここはより複雑で難しい問題です。なぜなら、ホワイトカラーの仕事は完全に「デジタル」な世界で行うことができますが、ブルーカラーの仕事は「アナログ」な世界と相互作用する必要があるからです。つまり、物理的な世界とやり取りするための何らかの媒体が必要となります。そのため、上記の要素に加えて、さらに2つの要素が必要です。それがセンサーとアクチュエーションです。ここでは、自動運転を例に考えてみましょう。
- センサー:物理的な世界の情報をデジタル信号に変換します。判断に必要な情報を取得し、それをデジタルに変換します。例えば、自動運転AIでは、信号機、道路、人などを正しく識別する必要があります。
- 理解:デジタルに変換された信号を理解します。例えば、信号機を見て、それが何であるかを理解します。
- 考察:入力された情報に基づいて判断を行います。例えば、信号機が赤になったら停止するという判断をします。
- アクチュエーション:判断された内容を物理的な世界に適用します。例えば、実際に車を停止させることです。
フィジビリティ結論
これらの要素を考えると、どちらも現時点では人を代替することは出来ないことです。ただし、ホワイトカラーの仕事は数年以内に、一部の領域では人間を代替できるレベルに達する可能性があります。その判断基準は、おそらく人間を代替することですから、人間よりも優れているかどうかです。例えば、人間よりもミスが少ないか、人間よりも速いかなどです。一方で、ブルーカラーの仕事も代替できるレベルに達する可能性はありますが、ホワイトカラーの仕事よりも数年遅れる可能性が高いでしょう。
インパクト:利益を生み出せるのか
インパクト:コストが高すぎる
AI技術の導入には多大な初期投資が必要です。例えば、AIプロジェクトの開始には、簡単なモデルであれば5,000ドルから、複雑なものでは50万ドル以上の費用がかかりますが、近年話題なっているLLM言語モデルや生成AIの開発には約10億ドル(約1.5兆円)が必要とされています。
また、AIシステムの運用コストも無視できません。大規模なAIモデルのトレーニングには、数百万ドルの費用がかかることがあります。例えば、OpenAIがGPT-4をトレーニングするために1億ドル以上を費やしたとされています。これらのコストには、クラウドコンピューティング、データ処理、エネルギー消費などが含まれます。
このように、AI技術の導入と運用には非常に高いコストがかかりますが、現在の収益はこれらのコストを正当化するには至っていません。企業は長期的な利益を見込んで投資を行っていますが、現時点では多くの企業が赤字を抱えている状況です。
今後の見通し
ただし、今後、AIの開発コストは低下する可能性が高いです。以下の2つの要因がその理由です。
AI学習の効率化:AI学習方法の進化により、同じタスクをより少ない計算資源で実行できるようになります。例えば、最新の機械学習モデルは、以前のモデルに比べてトレーニング時間が短縮され、エネルギー消費も削減されています。これにより、開発コストが大幅に削減されることが期待されます。
半導体の効率化:半導体技術の進歩により、AIチップの性能が向上し、消費電力が低減されています。例えば、最新のAI専用プロセッサは、従来のプロセッサに比べて数倍の効率を持ち、同じタスクをより高速かつ低コストで実行できます。これにより、AIシステムの運用コストも低下することが見込まれます。
これらの技術的進歩により、AIの開発と運用にかかるコストは今後数年で大幅に低下する可能性があります。
継続できるのか?
次の質問は、結果が出るまで継続的に投資を続けることができるかどうかです。結論から言いますと、いわゆる「ビッグテック」企業は継続的な資金力を持っています。例えば、グーグルは10年以上にわたりAIに投資しており、今後も投資を続ける可能性が高いです。
ちなみに、マイクロソフトの2023年の営業利益は約88.5億ドル(約1兆3,000億円)です。アップルの2023年の営業利益は約1143億ドル(約16兆8,000億円)です。資金力は十分あるとも言えるんでしょう。
結論
上記の内容を総合すると、AIの時代は今後数年以内に到来する可能性が高いと言えます。しかし、現時点ではAIモデルに投資できる資金力を持つ企業は限られています。では、資金力のない企業や個人はAIの活用が難しいのでしょうか?答えは「いいえ」です。CPUなど半導体を製作できる企業は少ないですが、PC、スマホなど通じて数億人がその恩恵受けていることと同じでしょう。例えば、ChatGPTは企業向けのサービスを提供しており、Meta社はLlamaというオープンソースモデルを公開しています。これにより、企業や個人もAIの進化による恩恵を受けることができます。次回は、その恩恵をどのように受けるべきかについて解説したいと思います。